愛知・蟹江の母子殺傷:発覚1週間 行動不可解、絞れぬ動機

毎日新聞 2009年5月10日 中部朝刊

 ◇10時間何を? なぜ凶器残す

 愛知県蟹江町の一家3人殺傷事件は9日、発覚から1週間がたった。犯人は床の血痕をふき取るなど入念に証拠隠滅を図る一方で、凶器を現場に放置するなど行動に脈絡がない。このため動機も、金目当てか恨みか絞り込めていない。県警蟹江署特別捜査本部は不審者の洗い出しを急ぐとともに周辺にトラブルがなかったか調べている。【福島祥】

 ■屋内に土足跡

 事件は2日発覚した。蟹江署員らが山田喜保子さん(57)宅を正午過ぎに訪れ、両手を縛られて首にけがをした三男勲さん(25)を発見。直後に1階和室から次男雅樹さん(26)、3日には和室押し入れから喜保子さんが遺体で見つかった。

 勲さんの特捜本部への説明では、2日未明の帰宅時を男に襲われた。男は勲さんに「2人殺した」「金はないか」と言ったという。その後、一家3人の財布から紙幣が抜き取られていたことが判明。さらに捜査幹部によると、1階から土足の跡が見つかっていたことも9日、新たに分かった。強盗目的の犯行の見方は裏付けられたように見える。勲さんは犯人を「見知らぬ男」と証言した。

 ■証拠隠滅図る

 署員は勲さんを保護した時、玄関で若い男を目撃していた。男は数分後に姿を消し、事件にかかわっていた疑いが強い。だが、この男が金目当てで押し入ったとすると疑問が浮かぶ。勲さんを襲ってから10時間余り、現場で何をしていたのか。

 1階居間の床には血痕をふき取った跡があった。浴室には血の付いた衣類や毛布など、脱衣場の洗濯機にも血の付いたTシャツとタオルが残され、一部は水洗いされていた。さらに屋内から凶器とみられるスパナ、包丁、小刀も血をふき取った状態などで見つかった。

 特捜本部は、犯人が着衣や凶器から血痕や指紋を消し、証拠隠滅を図った可能性があるとみている。一方で捜査幹部は「証拠隠滅に時間をかけ過ぎている」と首をひねる。

 ■激しい恨み?

 喜保子さんの死因は頭を何度も殴られたことによる外傷性脳障害で、顔や背には殴られた跡、首には絞められた跡もあった。雅樹さんの死因は左肺動脈切断による出血性ショックで、顔に殴られた跡もあった。別の捜査幹部は「強い殺意がうかがえる」と話す。

 住宅には窓から侵入した形跡がなかった。土足跡にも、殺害現場を歩き回ったことを示す血痕は付いていなかったといい、侵入時から土足だったかは不明だ。このため特捜本部は一家を知る者の恨みによる犯行の見方も捨てていない。幹部は「じっくり捜査するしかない」と力を込める。

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 ◇蟹江町一家3人殺傷事件の経過◇

《1日》

20時  三男勲さんが勤務先から帰宅。直後に外出し、名古屋市内で知人と食事

21時  母喜保子さんが知人と電話

21時半 次男雅樹さんが勤務先を出る

 《2日》

2時過ぎ   勲さん帰宅。男に襲われる

早朝     喜保子さんの配達する新聞が届かないのを不審に思った住民が訪問。応答なし

12時前   雅樹さんが出勤しないのを不審に思った上司が訪問。応答がなかったため、近くの交番に通報

12時20分 上司と蟹江署員が訪問。署員が勲さんを保護した際、屋内で不審な男を目撃。直後に雅樹さんの遺体発見

《3日》

14時10分 現場検証で喜保子さんの遺体発見

 ※時間は特捜本部などの推定


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