愛知・蟹江の母子殺傷:屋内に不審な若い男 署員目撃後、姿消す

毎日新聞 2009年5月8日 中部夕刊

 愛知県蟹江町の一家3人殺傷事件で、県警蟹江署員が現場の会社員、山田喜保子さん(57)方を訪れ、両手を縛られてけがをした三男勲さん(25)を発見した際、屋内で不審な若い男を目撃していたことが8日、蟹江署特別捜査本部への取材で分かった。男は署員が目を離したすきに現場からいなくなったという。特捜本部は、男が事件について事情を知っているとみて行方を捜している。【福島祥、山口知】

 捜査幹部によると、殺害された次男雅樹さん(26)の上司と同署地域課の男性巡査が2日午後0時20分ごろ、山田さん方を訪れると、両手を電気コードで縛られた勲さんが自力で玄関から出てきて「強盗に遭いました。中で2人死んでいます。犯人は逃げました」と助けを求めた。巡査が勲さんを敷地外に連れ出して玄関前に戻ると、ドアのすき間から玄関口にうずくまっている男が見えた。犯人とは疑わず「出て来てください」と声を掛けたが、反応はなかった。

 巡査が署と無線連絡するため現場を数分離れた間に男は姿を消していた。1階勝手口が施錠されていなかったことから、男はここから逃げたとみられる。男は黒っぽい服装で長ズボンをはいていた。

 勲さんの特捜本部への説明によると、2日未明の帰宅直後、玄関で男に襲われ、手を縛られた。男は「2人殺した」と話したといい、勲さんは「見知らぬ男でイントネーションがおかしかった」と証言。巡査が来た際、勲さんは男が既に逃げたと思って助けを求めたという。事件発生から巡査の到着までに雅樹さんの上司ら別の複数の訪問者がいたが、勲さんは「男に布団をかぶせられ動けなかった」と話している。

 県警は男の逃走直後に緊急配備したが、男は見つからなかった。立岩智博・県警捜査1課長は「結果的に不審者に逃走されたわけだが、けがをした三男の治療を優先した。現場保存や鑑識活動を慎重に行う必要があった。初動捜査に問題はなかった」とコメントした。
 ◇県警、初動捜査に問題か

 県警は現場にいた不審な男を目撃しながら見失ったうえ、この情報を事件発生から1週間近くたっても公表していなかった。捜査幹部は「初動捜査に問題はなかった」としているが、識者は対応の問題点を指摘している。

 ある捜査幹部は「巡査は男を被害者と勘違いしたのかもしれない。そのため、現場の住宅内に入らず『出てきてください』と呼び掛けた」と説明する。

 これに対し、ジャーナリストの大谷昭宏さんは「三男から被害の申告があった時点で、現場にいるすべての関係者を足止めするという当たり前のことができなかったのは失態と言われても仕方がない」と指摘。情報を公表しなかったことについても「不可解さを感じる。裁判員制度を意識するあまり、稚拙な情報操作になってしまったのではないか」と疑問を呈した。

 一方、田宮栄一・元警視庁捜査1課長は「うずくまっていた男を被害者と思い、救急車や応援の要請を優先したのであり一概に責められない」としたうえで、男に逃げられたことについては「結果は残念で、声をかけるだけでなく、抱き起こすなどの行為があってもよかった」と話した。


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